●教科書が読めない子どもが増えている
随分前になりますが、国立情報学研究所社会共有知研究センター長・教授である新井紀子先生著「AI VS 教科書が読めない子どもたち」「AIに負けない子どもを育てる」が出版され、それらを読んだときのことです。
読み終えたときの衝撃がこれまでの人生の中で最大級だったことをよく覚えています。しかし同時に、「やはり」と膝を打つ思いもありました。私の中で、正確な数値化はしていないだけで確信に近い物があったのでしょう。それならばと早速自分自身でも指導している子どもたちを対象にデータを取っていきました。
ここでは具体的な数値の公表を控えますが、一定期間データをまとめていくと、自分でも驚きの結果が出たのです。非常にシンプルな結論でした。それは、
「読解力がないと学力は伸びにくい」ことです。
もちろん取るデータの母集団によっては多少なりとも違う結果が出たであろうことは想像に難くありませんが、ある一定条件の母集団においては確実に言えることであり、国語の重要性というものを再確認した瞬間でした。
●基礎読解力は人生を左右する
話をもとに戻しましょう。新井先生は、科学的エビデンスが少ない教育というものに目を向けられ、その中でも特にわからないことが多い「読解力」というものの解明、つまり数値化を試みられました。
我々には想像もできないような苦労や様々な検証の結果、先生の研究で得られた結論は、
「基礎的読解力は人生を左右する」というものでした。
こう書くと、「基礎的読解力がないよりはある方がいいけど、そこまで大騒ぎするほどの問題なの?」と思う方も少なくないかもしれません。少しだけ、先生の研究内容を紹介しましょう。
現状解明しているだけで、読解力には7つの分野があることがわかっています。(実際には、長文読解に関連する分野については、不確定要素が多くまだはっきりと定義できていません)
① 係り受け解析
② 照応解決
③ 同義文判定
④ 推論
⑤ イメージ同定
⑥ 具体例同定(辞書)
⑦ 具体例同定(数学)
の7つです。①と②はすでに盛んに研究されており、表層的な読解のファクターとして位置付けられています。③から⑦までは、それ以上の深い読解を司るファクターになります。これらは、長年研究されているのに、なかなか精度が上がらないものなのだそうです。
順番に説明していくと、
① 係り受け解析
「何がどうした」という主語と述語の関係や修飾語と被修飾語の関係を理解すること。
AIの正解率が高い。
② 照応解決
「それ」「これ」といった指示代名詞が何を指すかを理解すること。AIの正解率が高い。
③ 同義文判定
異なる2文が同義(同じ意味)かどうかの判定ができること。AIにはまだまだ難しいと考えられている。④ 推論
持っている知識を総動員して文章の意味を理解できること。また、「AはBであり、AはCである」という文脈から、「BはCである」と判定できること。AIでは全く歯が立たない。
⑤ イメージ同定
文章と図形やグラフを比べて、内容が一致しているかどうかを認識すること。
AIでは全く歯が立たない。
⑥ 具体例同定(辞書)
国語辞典的な定義を読んでそれと合致する具体例を認識すること。AIでは全く歯が立たない。
⑦ 具体例同定(数学)
数学的な定義を読んでそれと合致する具体例を認識すること。
これらの7つの分野において、それぞれ基礎的な短文を作り、1000名を超える中学生、高校生にテストをし解答させたところ、①、②はまずまずできていましたが、その他がかなり正答率が低い、もしくはランダム率が高い(つまり多くの子どもが適当に答えていた)という結果が出ました。
さらにこの短文は、学校の教科書から作成したものであることを考慮すると、「表層的な内容でしか教科書を理解していない子どもが多数を占める」という結果が見えたのです。
そして、私が衝撃を受けた分析結果がこちらです。
「このテストの平均能力値と進学した高校の偏差値との間に、滅多に見られないほど非常に高い相関関係が見られた」です。
つまり、基礎読解力が低いと、難関校には入れないのです。基礎読解力がなければ、教科書だけでなく、試験問題の問題文も速く正確に読めないからです。
結果としてそのことは人生をも左右してしまうのです。
私立中高一貫校受験で考えると、最難関校と呼ばれる中学校では、公立高校3年生の読解能力を持つ生徒を入試でふるいにかけています。上述のテストを正確に、しかも集中してすらすら読めなければ、スタート地点にも立つことさえできないように作成されているのです。
そのような入試問題をパスでいるような能力があれば、高校2年生まで部活に明け暮れて、赤点近い点であったとしても、1年間受験勉強に勤しめば、旧帝大クラスの大学に入学できてしまうのです。
理由は簡単です。
教科書や問題集を読んで理解できるからです。
全ての学力は読解力が土台になっているのです。
