過去問はどの年度からやるか

さて、前回の「中学受験での過去問の使い方①」に続いて②の投稿です。

過去問の使い方と言われても、問題解いて答え合わせして間違えを直すしかないよ…と思っている方が大半だと思います。
他教科はそれでも良いのですが、国語についてはちょっと毛色が違います。
国語は同じ問題が二度と出ません。
だから解き方に汎用性を持たせなくてはなりません。
いわゆる「どんな文章が出ても解ける」状態にするのがベストです。

しかし、そうも言っていられない状況だってありますよね。
例えば、志望する中学の偏差値と現在の自分の偏差値に大きな乖離がある場合。
どんな文章が出ても解けるように、などと綺麗事は言っていられません。
他は全部ダメでも良いから第一志望校だけは合格したい!という思いでその学校の過去問をひたすら解いている子にはそんな言葉は全く響きません。

学校の偏差値によりますが、半数近くの方がそういった状況にあります。
ならば、志望する学校の入試ではどういった文章が出題されるのかということを熟知しておかなくてはなりません。出題されるジャンルを掴み、その対策に時間を投入することになります。
対策には選択と集中が必要なのです。

で、過去問の話になりますが、過去問は、たくさんあるほどよく、古い年度からやるのがベストです。
他教科に比べて国語の入試問題は、その学校が求める生徒像に強く関係する文章が出るという意味で、文章や難易度の大幅な変更がない教科です。
ですから、古い年度で十分な修練を積んでから最新年度に挑む構図が理想です。

自由作文

多くの学校には、必ず出題されるタイプの問題というのがあります。

これは出題する学校が限られますが、典型的なものが自由作文。
決して簡単とは言えませんが、対策がしやすいものの一つになります。
過去問を1年分通してやることも大切ですが、試験時間から逆算して、自由作文にかけられる時間を計算し、その制限時間の中で解くという過去問対策をお薦めします。

選択肢問題への取り組み方

選択肢問題は、簡単なものであればよいですが、基本的に文章が正しく読めていなければ解けないものが多くあります。
選択肢問題で気を付けなければならないのは、
「正解とならない選択肢こそどこが違うのかを正確に、しかも極力短い部分に線を引く」ことです。
当たり前に思うかもしれませんが、意外とちゃんとやっている子は少ないです。
正しいものを選ぶだけでなく、間違えているものも「何が違うか」を明確にすることは深い読解を必要とするものなのです。
ただし、これは限界があります。
どのような限界かというと、線を引いた部分が果たして正確なのかどうかが自分だけでは判断できないからです。
最終的には、それをだれかに見てもらう必要があります。


実はこれをたくさんしていくと、その学校の選択肢を作る人の癖がなんとなく分かってきます。
そうすると、「ひっかけポイント」が見えてくるのです。
こういうものは、教わって身につけるより、体で覚えた方が何倍も効果があります。

少し慣れてきたり、同じ過去問の2周目であれば、
選択肢問題は「本来は記述しなくてはならないが、あえて選ぶ形式にして答えを用意してくれているもの」と捉えるとよいでしょう。
大まかで結構です。選択肢を読まずに設問を読んで、「だいたいこんな感じかな?」くらいの輪郭が思い浮かんだらそれに近い選択肢を探すという解き方をします。
面倒ですが、解答作成力が確実に上がります。

このときに注意すべきことがあります。それは、「選択肢ごとに本文を読み返さない」です。(これがまた実に多いのです…)
選択肢を見るごとに本文の最初から読み直す作業はおよそ考えうる最も最悪の解き方です。
というよりむしろこの場合、「本文の内容を理解できていない」可能性が高いです。
選択肢にある文言と同じ文言を探す「ウォーリーを探せ」の心理になっています。
ウォーリーを探す時間は何も生み出さないため、本文の意味を理解する学習に切り替えましょう。

取捨選択をする

過去問で高得点が取れるならそれに越したことはありませんが、まずは取らなくてはならない最低点を決めたら、そこから逆算して「間違えてもよい、もしくは解かなくてもよい問題」を決めましょう。
思い切ってその問題の対策はとらない勇気を持つことも必要です。
制限時間内に解けそうにないときは、まっさきに「捨てる」段取りをしておくと、本番で心に余裕が持てます。
大概の入試問題は6~7割取れればよいわけですからその点数を取れるように他の問題の対策に精一杯の努力と持てる時間を集中するのです。

いわゆる選択と集中です。
直前期は、理科や社会の学習時間も多く取るべきです。
入試直前期の学習は「あれも、これも」という足し算ではなく、引き算の発想でいくのが成功の秘訣です。

過去問は最後までやる

時間を測って解く、という練習は当然必要です。
ただ、制限時間過ぎたらどうするの?とよく聞かれます。
私は「最後まで解いてください」と答えます。
ただし、制限時間が来たらいったん鉛筆を置きます。
そして、青ペンに持ち替えて再び解いていきましょう。
解答用紙が鉛筆と青ペンで2色になります。
これで、どこで時間切れになったかが分かります。解くべきところを全部解き終わったら答え合わせを行いましょう。

あきらめ癖をつけない

「見切り千両、損切り万両」という言葉があります。
投資において、まだ損失が浅いうちに見切りをつけることには千両の価値があるが、損失をさらに大きくさせないように、ある程度の損失を覚悟して売買することは万両の価値がある、という相場格言です。

入試に損切りはありませんが、制限時間内でいかに見切るか、というのはとても重要です。
一般的に言われるのは、一定時間経ったらやめて解答を読み理解して再度解きなおす、というものです。
当たり前と言えば当たり前です。

しかし、必ずしもそうではない、と教えられたことがあります。

もちろん大前提として言いますが、限られた時間の中でどのように効率的に点数を取るかが入試においては最重要であることは自明です。
「解けない」と思ったらすぐ見切って次へ行く能力はまぎれもなく必要です。
当然、私もかつては明白な事実として、相談されたときは何も考えずにそう返していた時期がありました。

私の固定概念を覆したのは、一人の女子生徒です。

理科の天体に関する入試問題でした。
「先生、家帰ってまた考えるから解説聞かなくていい?」
と言って解説時間中、目と耳をふさいでいました。

その子はその問題を2日間にわたって考え続けていました。
授業後にもう一度考え、家に帰って寝る前にまた考え、学校の授業中にまた考え(学校の先生すみません)という具合に、です。
大分憔悴していたようです。
3日目にどうしても分からなくて答えと考え方を私に聞いてきました。

解法を聞いた時の彼女の顔が忘れられません。
解けなかった自分の不甲斐なさを嘆くような、思考の幅の狭さに憤っているような鬼の形相でした。

自分の力でとことん考えつくすという姿勢は脳科学的に良いと立証されていましたが、私はそれは入試には特に必要ない、と考えていたのです。

しかし、その日を境にしたかどうか定かではありませんが、その後の模擬試験で彼女の偏差値が20以上上がり、それをキープしていたことは記憶に鮮烈に残っています。

彼女は、女子最難関と言われる学校に合格していきました。

解くという目標を達成するために堅忍持久という精神論もときには必要だと思い知らされました。
早く答えを知りたいという欲求を抑え、頭を常に戦闘態勢において、解けないかもしれない問題を考え続けるという不屈の精神が間違いなく彼女の中で大きく花開き、能力を飛躍的に向上させた瞬間だったと思います。

もちろん、稀な例だと思います。
しかし、長くこの仕事をやっていると、そのように「化ける」生徒をたまに見ます。
前触れなく、ではなく因果関係がはっきりしているのは確かです。

時間と戦う受験生にとって考え続けるというのは簡単なことではありません。
解けない問題は早く見切って次へ行くのがセオリーです。
ただし、この「見切り」がときに諦めや妥協に変わることが多いのも直前期学習の特徴です。
見切りとあきらめは違います。

ときには「勝てないかもしれない問題にひたすら粘って挑戦し続ける」ことも重要なのかもしれません。

彼女は、その後一流企業に就職し、キャリアを積んだ後、自分で会社を立ち上げ、起業家として多くの人材育成に携わっているそうです。